KaorixWines.com

日本酒とワイン

various drinks

年に一度、Decanter主催のAsia Wine Awardsにて審査員をなさっているA先生が来港されるので、A先生を囲んでワイン好きの仲間と夕食会。私は去年、残念ながら都合がつかずにA先生との再会は2年ぶりでした。全員がワイン好きなのもあり、ワインを持ち込めるレストランにて参加者其々がワイン1本用意する事になっており、A先生以外で赤白偏りすぎないよう事前に軽く打ち合わせをして決めていました。

ヴィンテージシャンパン、シャブリ、インドのソーヴィニヨン・ブランに赤は3本ピノ・ノワールでしたが全て産地は違い、スイスのヌーシャテル、ニュイ・サン・ジョルジュ、ヤラヴァレー。ヴィダルのデザートワインと食後酒にシーバス・リーガル。非常に面白いものばかりでテイスティングしながらの食事に期待がぐっと上がります。

A先生は前回もそうでしたが、興味を引くものを持ってきてくださるので今回は何を持ってきてくださるんだろうと思っていたら、なんと日本酒。安部総理の食卓外交でも使われた?(お土産?)と言われている獺祭です。日本酒って野菜から魚、肉まで一本でカバーできるところが凄いですね。もちろん細かいところに拘るのであれば、ワインと同じようにピンポイントで合わせた方が素晴らしいマリアージュが体験できるのは言うに及びません。それはワインも日本酒も一緒。

香港でも人気が出て、最近では手に入らなくなったと言われている獺祭。獺祭を造っているのは山口県岩国市にある蔵元、旭酒造です。通常蔵元は企業秘密にしていることなどが多いこと、人が入ることにより招かざる雑菌などを嫌がる故、直接販売はしていても蔵元の見学は嫌がるところが多いのですが、こちらの蔵元はその辺り、非常にオープンで個人の訪問者に対して大きく扉を開いています。獺祭の話が出た時に私の両親が「あら、その蔵元見てきたわよ。オートメーション化した所でしょ?」と言うので最初とても驚いたものです。日本酒好きではありますが業界関係者というわけでもなく、また近所でもないし…。

ホームページを見ると、日本語以外に英語、フランス語、中国語でアクセス可能で、利用している遠心分離機や材料になる米など各言語で説明があり、英語のサイトにおいてはインターンシップの受付、コーシャ認証(ユダヤ教の戒律に基づいて生産された食品として認証)等、いやはや日本以外の市場にも積極的に関わっている勢いある蔵元です。コーシャ認証の日本酒だとアメリカ市場での販売が広がりますから、着眼点も凄い(特にニューヨーク)。

旭酒造は江戸時代から200年以上続く蔵元で、元々普通酒『旭富士』を200年以上造っていたのでしたが、小さな蔵元でもあり現社長桜井氏が継いだ84年の頃は経営状況は火の車で、年間生産量が126kl、売上高は9700万円で、前年よりも85%売り上げが落ち込んでおり、事実上倒産状態で、廃業寸前だったそう。そんな落ちぶれていた(失礼!)蔵元が2014年度9月期の売上高が49億円。毎年売上高が上がっており、現在の市場では品薄な状況になっています。どこも蔵元は厳しい状況が続く中、何故旭酒造は伸びているのか?

長年の商品であった『旭富士』の醸造を辞めて、全てプレミアム商品である大吟醸酒『獺祭』だけに絞ったこと。歴史あるものを切り捨てることはかなりの勇気がいりますが、小さい蔵元だからこそできたことでもあると思います。日本酒には色々と種類がありますが、次の図2よりヒエラルキーにすると以下9種類に分けられ、その中の高級酒に当たるものが特定名称酒と呼ばれているもの。またその細い内訳の説明が表1になります。

図2: 日本酒の品質による種類

 
                                                                                                                出典:ee26.com
表1:それぞれの特定名称酒

特定名称 使用原料 精米歩合 麹米使用割合
 純米大吟醸酒  米、米麹 50%以下 15%以上
純米吟醸酒 米、米麹 60%以下 15%以上
純米酒 米、米麹 15%以上
特別純米酒 米、米麹、醸造アルコール 60%以下又は
特別な醸造方法
15%以上
大吟醸酒 米、米麹、醸造アルコール 50%以下 15%以上
吟醸酒 米、米麹、醸造アルコール 60%以下 15%以下
本醸造酒 米、米麹、醸造アルコール 70%以下 15%以上
特別本醸造酒 米、米麹、醸造アルコール 60%以下又は
 特別な醸造方法 
15%以上


                              出典:李白

特定名称酒は基本、純米酒、本醸造酒、吟醸酒の3つのタイプに分けられ、違いは表からも分かるように原料と精米歩合(玄米を削った後の白米の割合)によります。純米酒は米と米麹のみで、本醸造酒はそれに醸造アルコールが加えられること。吟醸酒は純米酒又は本醸造酒を『吟醸造り』をしたもの。吟醸造りは精米歩合を60%以下にした米を使い、低温(5~10℃)でゆっくり長期間(30日以上)アルコール発酵させるなど、吟味して醸造されたものとしています。

プレミアムなものに特化するということは、原料、製法にも拘ることににつながります。酒米にも色々とありますが、一番高級米と言われている山田錦のみの使用で、精米歩合を出来るところまで引き下げたことにより、質を追求したわけです。獺祭の代名詞でもある「磨き二割三分」は23%だけを利用、つまり残りの77%は使わないということです。どんだけ捨てんねん!と突っ込み入れそうになりますね。貴腐ワインを造るにあたっての数回のtriageとsortingの作業に近いものを感じます。

原料以外にも醸造技術も見直したことも品質向上につながりました。通常蔵元には杜氏がおり、彼の指揮のもと日本酒が毎年造られています。ワイナリーの世界で言えば醸造責任者といったところでしょう。杜氏は年中常駐しているわけではなく、日本酒造りの冬の期間だけ蔵元に来て働きます。ワインの世界でのフライング・ワインメーカーに近いかな?旭酒造はその杜氏がいません。以前はいたようですが、ある事件をきっかけに杜氏ではなく社員全員で醸造しています。日本酒もワインと同じように毎年のブレみたいなものがあり、杜氏次第で品質にも上下がでる。よってベストな状態になる条件を全て数値化し、社員で管理をしているそうです。

日本酒製造ではかなり重い割合を杜氏に頼っており、そんな杜氏がある日突然いなくなったら…杜氏に頼りきっている蔵元にとっては背筋が凍る状況で死活問題です。杜氏がいなくとも数値化することにより、一定の条件を造り出すことを行い、年に一度の仕込みも冬の寒い状況を整えたら、年中醸造も可能ということに目をつけて、機械化できるところは機械化させ、洗米など人の手が重要な部分は人の技術を上手く組み合わせたのも成功の一因といえるでしょう。ワインの場合はヴィンテージの観点から年に1度の生産を増やすことは無理ですが、プレミアムワインの醸造と何ら変わりはありません。

今回A先生が持ってきてくださったのは磨き三割九分。39%までになったお米から出来ているもので、ピュアで香りが高く幸水梨を感じました。ワイングラスで楽しめる日本酒です。美味しいです。いやはや、やっぱり裏切りません。

インドのソーヴィニヨンはフルーツ香、ピラジン系の香りがでて、バランス良く仕上がっており、インド産ワインも世界市場に勝負に出てきたのを感じました。産地がそれぞれ違うピノはその産地の特徴がよく出ており、非常に面白く、特にヤラヴァレーのピノは梅の実をしっかり感じ、ワインも少しくぐもった感じがビオかバイオダイナミックを感じさせる造りでどれもこれもリサーチのしがいがあるワイン達。ワインラヴァー達が持ってくるワインは良い意味一癖あってそれが楽しいです。清らかさのあるデザートワインとシーバスのMizunaraで最後の締めでしたが、最後まで脳と五感が刺激される夕食会でしたね。

レストランはフレンチをベースとするお料理で、3~5品のコース料理ですが、色々な食材が用意されているため選択の幅も広く、ワインも日本酒も美しくマリアージュが決まったのは至福な時でした。日本酒とフレンチも良いですね!フレンチの星付きレストランが日本酒をオンリストさせているのも頷けます。こちらのレストランはワインとシャンパンの持ち込みは無料ですが、それ以外は有料で、家以外で食事を楽しみながら興味深いワインを開けるのにはありがたい場所の一つ。今回は余り混んでいませんでしたが(珍しい)、混んでいることが常なので要予約です。

Bonheur Restaurant
6/F, The Pemberton, 22-26 Bonham Strand,
Sheung Wan,
Hong Kong
2544-6333